漢方で行う、
更年期症状・更年期障害の対策!
更年期障害の治療法のひとつとして、漢方薬による漢方療法があります。
漢方薬はきちんと自分のからだに合うものを見つけられれば、ホルモンバランスの乱れや体質を改善し、更年期の辛い症状を和らげてくれます。更年期症状を和らげてくれる漢方薬についてご紹介します。
漢方薬とは
漢方薬とは、中国を起源とする、日本独自の「漢方医学」で使われる薬のことです。
植物や動物、鉱物などの薬効となる部分を「生薬(しょうやく)」と言い、さまざまな生薬の組み合わせによって漢方薬が作られます。
漢方薬は特別な薬ではなく、医師から処方される一般的な薬の種類のひとつです。
漢方薬は症状に合わせるだけでなく、その人の体格や体質によって合う薬が変わってきます。症状に対して局所的な効果を発揮する西洋薬に対し、からだ本来の力を高めるよう全身的に作用するのが特徴です。
漢方の考え方とは
漢方の考え方は「心身一如」という言葉で表されます。これは心とからだは一体のもので、分けられないという意味です。
漢方医学では、「肝」「心」「肺」「脾」「腎」の5つの臓器が人体の機能を分担しており、精神的な部分の機能もそれぞれの5つの臓器がコントロールしていると考えられています。
そのため、漢方薬の多くは心身を同時にケアできるものになっています。5つの臓器の役割や現れる症状は下記のとおりです。
肝
気の巡りを管理し、栄養物を貯蔵する働きを持っています。情緒運動や自律神経の機能を司り、特に怒りの感情に関係しています。
「肝」が高ぶると、イライラ、怒りっぽさ、肩こり、疲れやすさなどの症状が表れます。
心
全身の血の巡りを管理するほか、思考力を司ります。「心」が弱ったり高ぶったりすると、焦りの感情が強くなる、安静時でも動悸がする、生あくびがよく出るなどの症状が表れます。
肺
肺や気管支などの呼吸器系と皮膚の機能や、免疫機能を調節します。「肺」が弱い場合、花粉症や鼻炎、湿疹、皮膚炎などになりやすい傾向にあります。
脾
消化吸収機能と全身の代謝を司ります。「脾」が弱ると、食欲不振、下痢、活気の低下などが見られます。
腎
成長や発育を担い、老化に深く関わります。加齢とともに弱りやすく、閉経は「腎」が弱ってきたサインです。
「腎」が弱ると、下半身のトラブルが増え、尿もれ、夜間の頻尿、膣の乾燥、脚力の低下が起きやすくなります。
漢方薬を選ぶ際、この五臓のうち、どこにトラブルを抱えているかを知ることが大切になります。
更年期に効く漢方薬
更年期に効く漢方薬はいくつかあり、その中でも「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」、「加味逍遙散(かみしょうようさん)」、「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」の3つは「女性の三大処方」と呼ばれています。
これらの漢方によって、更年期の不調の5~7割はケアできるため、自分に合った漢方を選ぶことが大切です。どの漢方が合うかは、「証」によって変わってきます。
あなたの「証」をチェック!
「証(しょう)」とは、訴えとともに、体格や体質、体力など患者さんのからだの状態を判断するもので、下記の3つに分けられます。
虚証(きょしょう)
虚証は、からだが本来持っている原動力や活力、栄養分が不足した状態です。過労でめまいがする、意欲や食欲の低下が見られるなどの状態が該当します。
下記のタイプの人に多い証です。
- やせ型・胃腸が弱い
- 筋肉があまりない
- 体力がない
- むくみや冷えの症状が強い
実証(じっしょう)
実証は、虚証とは逆で力が余っている状態です。肥満、胃酸の分泌過多でムカムカする、高熱が出ているなどの状態が該当します。
下記のタイプの人に多い証です。
- がっちり体型
- 胃腸が丈夫
- 体力がある
- 暑がり
中間証(ちゅうかんしょう)
中間証は、虚証と実証の間で、虚証と実証の入り混じった症状が出たり、どちらとも言えない中間の症状が出た状態です。
上半身はのぼせ下半身は冷える「冷えのぼせ」の状態が該当します。 この3つのうち、どの証に該当するかチェックしてみましょう。
はい | 中間 | いいえ | |||
1 | □ | 体質は筋肉質ですか? | 6 | 3 | 0 |
2 | □ | 固太りのほうですか? | 6 | 3 | 0 |
3 | □ | 肌はつやがありますか? | 8 | 4 | 0 |
4 | □ | お腹は弾力的で緊張感がありますか? | 8 | 4 | 0 |
5 | □ | 食べ過ぎても平気ですか? | 6 | 3 | 0 |
6 | □ | 食事のスピードは速い方ですか? | 6 | 3 | 0 |
7 | □ | 1日でも便秘すると不快ですか? | 6 | 3 | 0 |
8 | □ | 暑さ寒さに強いほうですか? | 6 | 3 | 0 |
9 | □ | 手足に冷えはありませんか? | 6 | 3 | 0 |
10 | □ | 活動的ですか? | 6 | 3 | 0 |
11 | □ | あまり疲れないほうですか? | 6 | 3 | 0 |
12 | □ | 声は力強いほうですか? | 8 | 4 | 0 |
13 | □ | 行動には常に余裕がありますか? | 8 | 4 | 0 |
14 | □ | 胃薬は苦いほうが飲みやすいですか? | 6 | 3 | 0 |
15 | □ | 寝汗はかかないですか? | 8 | 4 | 0 |
同様に、11は「疲れない」なら「はい」、「寝汗をかかない」なら「はい」を選んでください。
0-30点=虚証:エネルギーをつくりだす力が弱いため、疲れやすく冷えやめまい、動機などが起こりやすいタイプ。軽い不調が長く続く傾向があります。
31-60点:中間証:虚証と実証の性質を合わせ持ったタイプ。上半身はのぼせるのに下半身が冷える”冷えのぼせ”など、虚実の入り交じった症状が出やすい傾向があります。
61点以上=実証:比較的体力のあるタイプ。余分なものを体内に溜めやすく、脂肪過多や便秘に悩みがちです。血圧が高めでのぼせやすい傾向も。不調になると強い症状が出ます。
あなたはどの証でしたか?
更年期症状&「証」別のおすすめ漢方薬
証と症状に合った漢方を使うことで、更年期の負担を軽減することが期待できます。更年期症状と証別に効果的な漢方を見てみましょう。
更年期症状&「証」別のおすすめ漢方薬
女性の三大処方と呼ばれる3つの漢方薬は、それぞれ下記のタイプ・症状に効果的です。
虚証タイプで、手足の冷え、頭痛、めまい、肩こりに悩んでいる場合
→当帰芍薬散
中間証から実証タイプで、ほてりや発汗、冷えのぼせ、肩こりに悩んでいる場合
→桂枝茯苓丸
中間証タイプで、イライラやのぼせ、肩こり、不眠などの自律神経失調症状に悩んでいる場合
→加味逍遙散
こんな更年期症状にはこの漢方
女性の三大処方以外に、更年期症状に効果的な漢方が下記の通りになります。
手足の末端の冷え
→加味逍遙散。中間証から実証タイプは四逆散(しぎゃくさん)
冷えのぼせ(下半身は冷えて上半身はのぼせる)
→中間証から実証タイプは桂枝茯苓丸
内臓冷え(胃腸の働きの低下、食欲低下、胃痛、冷え)
→人参湯(にんじんとう)
腎虚による冷え(体の芯から冷える、寒さに弱くなる)
→真武湯(しんぶとう)や八味地黄丸(はちみじおうがん)
便秘・お腹にガスが溜まる
→加味逍遙散もしくは四逆散(しぎゃくさん)
腰痛や膝の痛み
→牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)
イライラする
→実証タイプは三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)や柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)。
虚証タイプは抑肝散(よくかんさん)
くよくよする
→加味帰脾湯(かみきひとう)
これらは漢方薬のほんの一部であり、別の漢方が処方されることもあります。漢方薬の処方を希望される場合は、女性外来や更年期外来、漢方外来などを受診しましょう。
また、市販薬で購入する場合は、漢方に詳しい薬剤師に相談して購入するのが安心です。
漢方薬のメリット・デメリット
どんな薬にもメリット・デメリットはあります。漢方薬はどうでしょうか?詳しく見てみましょう。
漢方薬のメリット
漢方薬のメリットは、重篤な副作用が少なく、体質改善という根本からアプローチができるところです。
例えば、不眠の症状を訴える人がいたとします。西洋医学では、脳に作用し睡眠を誘発する睡眠薬を処方して眠りやすくするのが一般的でしょう。
漢方医学の場合は、不眠の原因が気の滞りによるものなのか、イライラによるものなのかなど、その人の背景と証を考えて、状態に合った漢方が処方されます。そのため、より自然な形で症状が改善し、不眠に付随する冷えや疲れなどの症状の改善にも効果を発揮します。
また、西洋医学では病気とは言えず、効果的な治療法のない不快な症状も、漢方で緩和することが可能です。冷えや肩こりなど、更年期で頻度の高い症状の改善にも効果的ですので、なんとなく不調という方にもおすすめです。
漢方薬のデメリット
漢方薬のデメリットは、証に合ったものを内服しないと効果がなかったり、不快な症状が現れるところです。証に合ったものを選ぶことが大切ですので、漢方に詳しい医師や薬剤師に相談することが勧められます。
また、苦味が強く粉末であるため、飲みにくいというデメリットもあります。オブラートやお薬を包むゼリーなどを利用すると飲みやすくなりますので、試してみるといいですね。
漢方でQOL(生活の質)を上げよう
証と症状に合った漢方薬に出会えれば、更年期の不快な症状から開放されることでしょう。
しかし、症状や状態によっては、漢方療法以外の治療が必要になる場合もあります。更年期セルフ診断を行ってみて、ご自身の更年期症状を客観的に評価してみましょう。
もし、更年期の症状が強い場合は、専門医のいる婦人科を受診し、早めに治療を受けることが望ましいです。
更年期外来または女性外来の診察を受けて、適切な治療を受けましょう。日本女性医学学会または性差医療情報ネットワークのホームぺージでは、更年期外来や女性外来のある医療機関が検索できるようになっています。症状が強くない場合にも、年に一度は婦人科検診を受けに婦人科を受診しましょう。
参考文献
女性外来のお医者さんが教える「更年期の苦痛」のやわらげ方 天野恵子
40歳であわてない!50歳で迷わない!もっと知りたい「女性ホルモン」 小山嵩夫
参考URL
製薬協漢方薬(かんぽうやく)とは、どういうものですか。
www.jpma.or.jp/medicine/med_qa/info_qa55/q04.html
日本東洋医学会心身一如の医学
www.jsom.or.jp/universally/examination/sinsin.html
ツムラ不眠・不眠症
www.tsumura.co.jp/kampo/nayami/fumin01.html
その漢方薬が自分に合っているか意識しましょう。
www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/~yakuzai/yomukusuri/vol108.pdf
金沢医科大学漢方薬を服用する為の基礎知識
www.kanazawa-med.ac.jp/~center21/kanpou/files/q&a.pdf
日本女性医学学会
www.jmwh.jp/