更年期に注意すべき病気:子宮体がん
更年期世代はさまざまな病気が増えていく年代ですが、そのなかでも女性特有の病気として『子宮体がん』があります。更年期症状と似ていることもあり、間違えられやすい病気です。この記事では、子宮体がんについて、どのような病気なのか、考えられる原因と症状、治療法についてご紹介していきます。
子宮のがん、子宮体がん
子宮は鶏の卵ほどの大きさで、女性の骨盤内にある臓器です。妊娠時に胎児を育てる部分と、分娩時の産道となる部分にわかれています。
前者が子宮上部、左右の卵管に繋がる袋状になった部分で『子宮体部』と呼び、後者が子宮下部、膣に繋がる筒状の部分で『子宮頸部』と呼ばれています。子宮にできるがんとしては、子宮頸がんと子宮体がんがありますが、同じ子宮でもがんの発生部位が異なる病気です。また、子宮体がんは子宮内膜にできることから、子宮内膜がんと呼ばれることもあります。
子宮体がんの原因、リスク
子宮体がんはエストロゲン(卵胞ホルモン)という女性ホルモンが深く関わる場合と、エストロゲンとは関係のない原因で発生する場合があります。
主に、出産経験がない、閉経が遅い、月経不順、肥満、卵胞ホルモン製剤だけのホルモン療法を受けている方などが関係しているとされています。しかし、一般的に更年期障害の治療で使用されるのは、黄体ホルモンを併用するものであり、子宮体がんが発生する危険性は高くありません。
エストロゲンの値が高い方では、子宮内膜増殖症という段階から子宮体がんが発生することもあります。一方で、エストロゲンとは関係のない原因としては、関連遺伝子の異常に伴うものや、高齢者、高血圧、糖尿病、血縁者に乳がんや大腸がんになった方がいることなどがあげられます。
子宮体がんの症状、診断
子宮体がんの症状で一番多いのは不正出血です。子宮頸がんと比べると、子宮体がんになりやすい年齢は更年期世代から50~60代がピークとされています。
出血は褐色のおりものだけの場合もあり、こうした不正出血が続く場合や、特に閉経後の不正出血には注意が必要です。また、他の症状としては排尿時の痛みやお腹の張り、性交時の痛みなどもあげられます。更年期の症状かもと間違えられやすいものもありますが、これらの症状がある場合には早めに産婦人科の受診をして、早期発見に努めましょう。
子宮体がんの診断には、がん(悪性腫瘍)があるのか、どのようなタイプのがんなのか、どこまで広がっているのかを調べる検査が必要です。検査では、子宮内膜の細胞や組織を採って調べるものとして、細胞診や組織診があります。
これらの検査は子宮から専用の器具を挿入して採取したり、子宮鏡と呼ばれるスコープで観察をしたりします。痛みを伴うこともあるため、検査前に痛みを軽減する処置をする場合もあります。
他には、膣から専用の器具挿入する超音波検査も痛みの少ない検査のひとつです。超音波検査は、子宮内膜の厚みを調べるものですが、閉経前や初期のがんでは判断が難しいこともあるため、他の検査と併用して行われることが多いです。
そして、子宮体がんがどこまで広がっているのかを調べるためにCTやPET-CT、MRIなどの画像検査を行います。CTやPET-CTでは子宮以外の全身の臓器やリンパ節などに転移がないかを評価し、MRIでは子宮壁にどれだけ浸潤しているか、卵巣や卵管に転移はないかを評価します。よく検診で行われる子宮がん検診は、主に子宮頸がん検診のことで、子宮体がんの検査は含まれないこともあるため、注意が必要です。
子宮体がんの治療
子宮体がんの治療は基本的には手術がメインとなります。病気の進行具合、広がりにもよりますが、子宮や卵巣、卵管を摘出します。がんが転移している場合には、リンパ節も摘出することもあります。
手術で摘出したものを病理学検査に出し、がんがどのくらい広がっていたのかを診断します。このため、手術前の診断と病理学検査後の診断が一致しないことがあります。手術にはお腹を大きく切り開く開腹手術だけではなく、初期のがんでは小さな傷で済む腹腔鏡下手術も可能です。手術による病巣の完全摘出が難しい場合、または手術後の再発リスクが高いと考えられる場合には、抗がん剤や放射線の治療も並行して行うこともあります。
また、妊娠を希望される場合には、子宮を温存するホルモン療法などの選択肢もありますが、適応ケースが限られていることや副作用の問題もあるため、主治医とよく相談することが必要です。子宮を残すことができるのは、初期のがん、または悪性度が低いこと、黄体ホルモンによって成長が抑制されるがんの場合です。手術後は採取した細胞や組織を元に、がんの再発リスクをグループごとにわけて治療方針を決めます。
手術後の合併症
手術の範囲によって、傷の痛みがある、またはその他の症状が出ることもあります。なかでも、排尿・排便に関するトラブル、足のむくみ、更年期障害のような症状が起こることも考えられます。
子宮の全摘出術の場合には、子宮の周りの組織を含めて切除するため、排尿を調整する神経が傷つけられることがあります。そうすると、尿が出にくくなる、尿意を感じにくくなる、尿漏れなどの症状がみられます。排便に関しても同様で、腸の動きが鈍くなり、便秘傾向になることも合併症のひとつです。
さらに、子宮の摘出だけではなく、周囲のリンパ節を切除した場合には、リンパの流れが滞り、下半身のむくみがみられます。手術後すぐに症状が出ることもありますが、数年経ってから出ることも少なくありません。そして、ほてりや発汗、だるさ、動悸、不眠などの更年期障害のような症状があらわれることがあります。症状の出方や期間は人によってさまざまなため、主治医に相談してそれぞれの症状に合わせた薬などで調整することも大切です。
子宮体がんは病気が子宮にとどまっている範囲であれば、80%以上は完治が期待できます。しかし、手術をしたからといって問題がないわけではありません。定期的に通院が必要となります。手術後3年目頃までは1か月~4か月ごと、手術後4年目~5年目までは半年ごと、手術後5年目以降は一年ごとが通院の目安です。通院時には、体調の変化がないか、合併症の有無、血液検査やCT、MRI、内診などを行います。
また、症状や合併症によっては、泌尿器科や心療内科などの診察を受けることもあります。無理をせず、規則正しい生活を心がけ、心配な症状があれば産婦人科の受診をし、医師に相談することが大切です。
また、子宮体がんの診断がなくとも、更年期世代、閉経後で不正出血がある場合、妊娠・出産経験がない、月経不順、肥満、高血圧や糖尿病の持病がある方、子宮内膜が厚くなっている方はリスクが高まるため、早期発見のために子宮体がん検診を受けることをおすすめします。
参考
書籍「女性外来のお医者さんが教える「更年期の苦痛」のやわらげ方」
ganjoho.jp/public/cancer/corpus_uteri/index.html
jsgo.or.jp/public/taigan.html
www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=11