更年期に多い、尿漏れの原因と対策について

泌尿器・生殖器系の症状
21/03/22
更年期に多い、尿漏れの原因と対策について

「50歳を過ぎてから、トイレが間に合わなくなっている」「ちょっとした動作でも尿意を感じる」、このような症状をもたらす『尿漏れ』は、更年期を迎えた女性には多い悩みです。しかし尿漏れについて恥ずかしさを感じ、医療機関での治療やケアを始めるのに躊躇してしまう方も少なくありません。

更年期症状による尿漏れは、女性ホルモンの分泌低下による体の反応であり、決して恥ずかしいことではありません。むしろ、少しの勇気を出して治療やケアに取り組むことで、悩みを解決することもできるようになります。

今回は、更年期による尿漏れの症状や原因、対策について解説します。

更年期には尿漏れが起きやすくなる

まず尿漏れとは、自分の意思とは関係なく尿意をもよおしたり、トイレが間に合わずに失禁してしまったりする症状のことです。更年期の後期から更年期以降の『老年期』に多い症状だと考えられています。

尿漏れの種類には、『腹圧性尿失禁』『切迫性尿失禁』、2つを掛け合わせたタイプの『混合性尿失禁』があります。

腹圧性尿失禁

咳やくしゃみ、重い荷物を持つ動作や笑ったときなどに起こるタイプの尿失禁です。お腹に力が入ることを受け、自分の意思にかかわらず尿漏れが起こってしまいます。

切迫性尿失禁

急に強い尿意を感じ、トイレに行くまで我慢できなくなるタイプの尿失禁です。膀胱に問題が生じる『過活動膀胱』の一つに分類されています。

過活動膀胱は、「尿の回数が多い」「突然尿意を感じ、我慢ができない」「我慢ができないあまり、トイレまで間に合わずに尿漏れが起こる」などの症状をもたらします。
少しの尿でも膀胱が委縮し、排尿の意思がないにもかかわらず、膀胱が委縮して失禁につながるケースも多いです。また、夜中に頻繁に尿意を感じるケースもあります。

過活動膀胱チェックリスト

過活動性膀胱になっていないか確かめるには、症状のチェックリストが役立ちます。以下のチェックリストから、ご自身の状態を点数化してみましょう。

    • ①朝起きてから就寝するまでの、尿の回数

    • 7回以下【0点】
    • 8~14回【1点】
    • 15回以上【2点】

    • ②就寝から起床までに、尿をするために起きた回数

    • 0回【0点】
    • 1回【1点】
    • 2回【2点】
    • 3回以上【3点】

    • ③急な尿意を感じ、我慢が難しくなる頻度

    • なし【0点】
    • 週に1回より少ない【1点】
    • 週に1回以上【2点】
    • 1日に1回程度【3点】
    • 1日2~4回【4点】
    • 1日5回以上【5点】

    • ④急な尿意を感じ、失禁する頻度

    • なし【0点】
    • 週に1回より少ない【1点】
    • 週に1回以上【2点】
    • 1日に1回程度【3点】
    • 1日2~4回【4点】
    • 1日5回以上【5点】

    以上のチェックリストから、

    • 合計点数が5点以下の場合:軽症
    • 6~11点の場合:中等症
    • 12点以上:重症

    の過活動膀胱になっている可能性が考えられます。
    また、③の項目で2点以上、全体の合計点数が3点以上の場合も、同じく過活動膀胱になっていると言えます。

    ある程度の点数が出ている場合は、なるべく早くに泌尿器科を受診し、症状の有無を確認しましょう。

    更年期による尿漏れの原因

    更年期を迎えてから起こる尿漏れの原因は、症状の種類によって異なります。

    腹圧性尿失禁は、『卵胞ホルモン(エストロゲン)』の減少や加齢により、骨盤底筋群が緩むことが原因です。切迫性尿失禁をはじめとする過活動膀胱は、脳の命令に対して膀胱や尿道の筋肉にずれが生じ、症状につながります。また、肥満や便秘による膀胱や骨盤底筋の圧迫、『骨盤臓器脱』が尿失禁を引き起こすケースもあります。

    それぞれの尿失禁は原因や特徴が異なり、また適切な対策も変わってくるため、症状に心当たりがある場合はなるべくすぐに医療機関を受診しましょう。

    遅い時期の更年期症状に注意しましょう

    数ある更年期症状の一つである尿漏れは、55歳前後での『遅い時期に見られる症状』に該当します。

    更年期では卵胞ホルモンの分泌が低下し、さまざまな不調が起こりますが、45歳前後で生じる『早い時期に見られる症状』と55歳前後で生じる『遅い時期に見られる症状』でそれぞれ性質が違ってきます。
    前者は卵胞ホルモンの分泌低下によって自律神経が混乱状態になることが原因であるのに対し、後者の原因は泌尿器や生殖器、認知力の低下、筋力や骨量の減少などが原因です。

    遅い時期に見られる症状には、尿漏れのほか、骨粗しょう症や動脈硬化症、萎縮性膣炎、アルツハイマー病、性交痛、皮膚の乾燥、しみ・しわ、脂質異常症、肩こり、腰痛、関節痛などがあります。
    なかには命の危険にかかわる症状も多いため、遅い時期の更年期症状が出始めたら自己判断を避け、専門家による検査や治療を受けるようにしましょう。

    更年期による尿漏れへの対処法

    更年期症状の尿漏れの治療は、泌尿器科や女性外来で受けることができます。現在ではさまざまな治療法が確立されていて、さまざまなアプローチからの症状緩和が可能になっています。

    『ホルモン補充療法(HRT)』で緩和が期待できる

    更年期症状への治療法としてもっともメジャーな『ホルモン補充療法(HRT)』は、尿失禁に優れた効果が期待できる方法です。
    尿道機能の働きや膣の細菌に対する抵抗力を高めたり、骨盤底筋や尿道括約筋の筋力を上げたりするのに役立ちます。実際に、尿失禁は25~35%、頻尿は20~30%の改善率が報告されています。

    ホルモン補充療法は副作用が心配されるケースもありますが、ほとんどのケースで服用に慣れていくにつれて軽快していくため、それほど問題視する必要はありません。
    担当医師と相談しながら服用量やタイミングを調整し、症状と向き合っていきましょう。

    腹圧性尿失禁への対処法

    尿失禁はタイプによって原因や性質が異なることから、それぞれに合わせた対応が必要なケースもあります。
    特に腹圧性尿失禁では、骨盤底筋のトレーニングを鍛えて症状緩和を目指すことが多いです。それに加えて補助療法として薬物療法を取り入れるケースや、それでも改善が期待できない場合は手術を行うケースもあります。

    切迫性尿失禁・過活動膀胱への対処法

    切迫性尿失禁のような過活動膀胱へは、医師の指導による行動療法と薬物療法が必要です。

    排尿をできるだけ我慢し膀胱に尿をためる訓練や、生活習慣をはじめとする行動療法、薬物療法が主に行われます。
    これらの方法でも改善が期待できない場合には、電気刺激療法や磁気刺激療法を使うこともあります。

    骨盤底筋のトレーニングも試してみましょう

    腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁では性質や原因が異なりますが、骨盤底筋のトレーニングはどちらにも改善効果が出やすいため、毎日のセルフケアとして続けてみましょう。

    • 仰向けに寝て足を肩幅まで開き、両膝を曲げて立てる
    • 尿道と肛門、膣を引き締めたり緩めたりする動きを数回行う(引き締める・緩める動きにはそれぞれ3秒ほど時間をかけ、ゆっくり行うことがポイントです)


    最初のうちは1回5分程度、慣れていくごとに10分から20分ほどできるようになることが理想です。数か月単位で続け、更年期によって衰えやすい骨盤底筋を鍛えましょう。

    医療保険の見直しで、更年期治療に備えましょう

    尿失禁に限らず、更年期症状の緩和には医学的な観点からのケアが必要となるため、医療機関への受診が必要です。
    しかし、例えばホルモン補充療法の治療費は月1,000円から5,000円が相場であり、長期的に考えると金銭的な負担が生じることもあります。「年齢を重ねて出費が増える時期に、新たな金銭的ストレスが生まれる」と悩む方も少なくないほどです。

    そのような悩みには、医療保険の見直しをおすすめします。インターネットで調べたり詳しい方から紹介してもらったりして、ご自分にとって適切な医療保険を選び、治療にかかる負担を減らしましょう。ストレスが少しでも軽減されることで、治療に対して前向きな気持ちが芽生えていきます。

    心身ともに不調が多くなる更年期を快適に過ごすためにも、治療を受ける環境を今からしっかりと整えましょう。

  • この記事を監修している先生

    時計台記念病院

    藤井美穂先生

    社会医療法人社団 カレスサッポロ 時計台記念病院
    院長・女性診療科部長  藤井 美穂 MD・PhD

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